1 はじめに

 たとえ離婚の際に、養育費に関する取り決めがなされていても、いざ離婚すると相手方からきちんと養育費を支払ってもらえないケースもあります。
 養育費不払いの予防・対処法については、「相手方から養育費が支払われないときの対処法」でもご紹介させていただいておりますが、今回は、その中でも効果的な方法である、「給与の差押え」についてご説明いたします。
 

2 給与の差押えとは

 給与の差押えとは、「債権執行」という、強制執行の一種にあたります。
 債務者の給与を差し押さえると、その雇い主に対して直接、「(相手方ではなく)私に支払ってください」という取立てができるようになるのです。
 

3 他の手続との比較

⑴ 不動産執行、動産執行

 強制執行には、他にも不動産執行(土地・建物を売ったり、家賃相当額を定期的に回収することで、お金に換える手続)や、動産執行(不動産以外のモノ〔例:ブランド品〕を売ってお金に換える手続)などがあります。
 しかし、これらの執行には、法律上の手続や査定などに時間的・費用的コストがかかりやすく、動産執行に至っては回収率が低いというデメリットがあります。そのため、よほど高額であったり、担保を取ったりしていない限り、債権回収のために不動産執行・動産執行を利用することはあまりなく、まずは債権執行を検討するのがよいでしょう。
 

⑵ 他の債権執行ー銀行口座(預金債権)

 給与の他にも、差し押えられる「債権」は様々あります。給与の差押えと並んでよく利用されるのは、銀行等の預金口座の差押えです。
 後述のとおり、給与は差し押さえられる範囲が法律上制限されているのに対し、銀行口座にはそのような制限がないというメリットがあり、うまくいけば1度で全額回収できる可能性もあります。
 他方、相手方が強制執行を受ける前に口座から全額引き出していた場合、銀行口座を差し押えても空振りに終わってしまうというデメリットもあります。
 

4 養育費の回収としての、給与(賞与含む)の差押え

⑴ 原則:給与の差押えには、法律上の制限があります。

 債務をきちんと履行しないのは債務者の責任であるとはいえ、給与全額が差し押さえられると、債務者は全く生活できなくなります。(将来的な回収可能性を絶つことになりかねないという点では、債権者側にもメリットがありません。)
 そこで、法律は、債務者にも最低限度の生活を保障するべく、給与を差し押さえられる範囲を制限しています(民事執行法第152条1項2号、民事執行法施行令第2条1項、2項)。
 その結果、差し押さえ可能範囲は、給与の4分の1に相当する額、あるいは給与が月33万円を越える場合はその超過額全額のどちらか高額な方を差し押さえられるにとどまります(なお、給与が44万円以上の場合は、33万円を超える部分全額の方が給与の4分の1よりも高くなります。)。
 
 例:相手方の手取りが月40万円の場合
   ・40万円×1/4   =10万円
   ・40万円-33万円=7万円
 
   ⇒【結論】債権額を満たすまで、毎月10万円を差し押さえることができます。
 

⑵ 例外:養育費等の回収

 他方、
① 夫婦間の協力及び扶助の義務
② 婚姻から生ずる費用の分担義務
③ 子どもの監護に関する義務
④ 親族間の扶養の義務
 
 
から生じるお金(養育費や婚姻費用など、主に家族の扶養に関するお金)は、債権者自身の生活にも関わるため、法律で特に保護されています(民事執行法第151条の2第1項、第152条3項)。
 その結果、これらのお金を回収するために相手方の給与を差し押さえる場合は、以下の点で優遇措置があります。
 
 

 ア 差押制限の緩和

 
 差し押さえ可能範囲が、給与の2分の1に相当する額、あるいは給与が月33万円を越える場合はその超過額全額のどちらか高額な方を差し押さえることができます(なお、給与が66万円以上の場合は、33万円を超える部分全額の方が給与の2分の1よりも高くなります。)。
 
 例:相手方の手取りが月40万円の場合
   ・40万円×1/2   =20万円
   ・40万円-33万円=7万円
 
   ⇒【結論】債権額を満たすまで、毎月20万円を差し押さえることができます。
 

 イ 将来分の差押え

 
 一般的に、差押えができるのは、既に滞納となった債権に限られるため、月払いの債権等については、それが滞納になるたびに裁判所で申立てを行う必要があります。
 これに対して、養育費や婚姻費用などは、1度の申立てで済ませることができ、毎月の支払いが滞った場合は、その都度、差押えが実行されることになります。
 

5 おわりに

 
 以上のとおり、未払いが生じたとしても、相手方が会社員・公務員等である場合、(相手方が退職したり、会社が倒産したりしない限り)ほぼ間違いなく会社や役所から給与が支払われているはずですから、他の財産を差し押さえるよりも高い可能性で、比較的容易に、養育費を回収できると考えられます。
 また、相手方にとっては、給与の差押えをされてしまうと、“養育費の取り決めをしたにもかかわらず支払っていない”ということが雇用側に発覚することにもなってしまいます。そこで、“きちんと支払わないとそのようなリスクがありますよ”ということを予め相手に伝えておくことで、不払いの抑止力にもなるかと思います。
 
 養育費等をしっかりと受け取るためには、離婚時、あるいは離婚前からきちんと話し合い、場合によってはしかるべき手続を取る必要があります。
 弁護士にご相談いただければ、何をどのように準備すればよいのか、一緒に考え、動くことができます。どうぞご利用ください。

著者プロフィール

井上瑛子 弁護士
おくだ総合法律事務所
兵庫県立神戸高等学校卒
九州大学法学部卒
九州大学法科大学院修了
福岡県弁護士会所属

養育費