知っていますか?無戸籍問題<後編>(2024年4月~親子関係の法律が変わります)

1 はじめに

この動画では、 戸籍にまつわる法律問題について、民法改正の議論にもふれながら、前編・後編に分けてご紹介しています。

<前編>(こちらからご視聴いただくことをおすすめしています)
◆戸籍とは/戸籍の役割
◆戸籍に登録されていない方がいらっしゃるという現実問題
◆戸籍に登録されない事態は、なぜ生じるのか
(嫡出推定という民法の仕組み)
◆戸籍に登録されないと、どうなるのか

<後編>(今回)
◆前編のおさらい
◆約120年ぶりの民法改正(令和6年4月1日施行)
◆法改正で、嫡出推定はどうなる?
◆嫡出否認制度とは/法改正による見直し
◆【重要】無戸籍でお困りの方へ・・令和6年4月1日から1年間の救済措置について

今回の動画は、後編となります。前編をご覧になっていない方は、是非そちらからご覧いただけたら幸いです。

2 前編のおさらい

前編では、以下の点について解説しました。

◆戸籍の役割
・・人が生まれてから亡くなるまでの親族関係やその変動を記録し、証明すること。また、日本人であることを証明すること。

◆戸籍に登録されていない方がいらっしゃるという現実問題
・・推定では1万人を下らない数の無戸籍者がいらっしゃること。

◆戸籍に登録されない事態は、なぜ生じるのか
(嫡出推定という民法の仕組み)
・・嫡出推定とは、結婚している間にできた子どもや、離婚から300日以内に生まれた子どもは、夫の子どもと推定しますよ、という法律上の取り扱いのこと。
たとえば夫のDVから何とか逃げ出した女性が、別の場所で長年暮らしていた中で、別の男性と知り合って、その男性との間に子どもを授かった、というケースがあったとして、このとき、そのまま出生届を出すと、嫡出推定によって、その子どもは、戸籍上、夫の子どもということになってしまう。母親は、夫に知られるのが怖くて出生届を出すことができず、その子の戸籍も作られないまま、という事態が生じ得ること。

◆戸籍に登録されないと、どうなるのか
・・自身の婚姻届を出せない/パスポートや運転免許証を取得できない/実の両親が亡くなった場合に相続人として扱ってもらえないなど、様々な社会的不利益を被るおそれがあること。

3 約120年ぶりの民法改正(令和6年4月1日施行)

今回、無戸籍問題の解決策の1つとなりうる法律改正がありました。
これから紹介する親子関係の法改正は、実に約120年ぶりの見直しとなります。

無戸籍問題にまつわる改正の主軸は、以下の2点です。それぞれ説明していきます。
①嫡出推定制度そのものの見直し(→4へ)
②嫡出否認制度の拡大(→5へ)

4 法改正で、嫡出推定はどうなる?

⑴ 改正前

改正前の民法では、
・婚姻中に懐妊した子ども
・婚姻後200日を経過した日より後に生まれた子ども
・離婚後300日以内に生まれた子ども
は、いずれも、これらの婚姻における夫との子どもと推定されることになっていました。
そして、これらの推定規定との関係で、女性は、離婚後100日間は、再婚を禁止されていました。離婚後100日間に再婚をした場合、推定が重複してしまうためです。

※図:法務省パンフレット『無戸籍者問題の解消と児童虐待の防止のために』より
https://www.moj.go.jp/content/001413650.pdf

⑵ 改正後

これに対し、改正後の民法では、
・婚姻中に懐胎した子ども
婚姻後200日以内に生まれた子ども
・婚姻後200日を経過した後に生まれた子ども
は、いずれも、これらの婚姻における夫との子どもと推定され、さらに、
離婚後300日以内に生まれた子どもでも、出生までに母が再婚をした場合は、再婚後の夫の子と推定されることになりました。
そして、これらの推定規定が改められた結果、離婚後100日間も、推定が重複することはなくなったため、女性の再婚禁止規定が廃止されることになりました。

※図:法務省パンフレット『無戸籍者問題の解消と児童虐待の防止のために』より
https://www.moj.go.jp/content/001413650.pdf

5 嫡出否認制度とは/法改正による嫡出否認制度の拡大

⑴ 嫡出否認制度とは

嫡出否認とは、先ほど説明した嫡出推定を覆す制度です。
具体的には、生物学上の父子関係がないのに、嫡出推定によって法律上の父子関係が形成されてしまった状態を解消するため、嫡出子(結婚している夫婦間に生まれた子ども)であることを裁判所で否定してもらう手続です。

⑵ 法改正による嫡出否認制度の拡大

改正によるポイントは2つあります。
まず、改正前は、この嫡出否認制度を利用できるのは、嫡出推定によって父親と扱われることになってしまう男性(夫)のみでした。これが、改正によって、母親と子も利用できるようになりました。
また、嫡出否認制度を利用できる期間が、1年から原則として3年に伸長されました。

従来、母親や子どもは、
・親子関係不存在確認・・夫と子どもとの間に親子関係が存在しないことを確認する手続
・強制認知・・生物学上の父に認知してもらう手続
などの方法を取ることができたのですが、今回、そこに③嫡出否認という新たな選択肢が加わったことになります。

このように、選択肢が1つ増えたということは、無戸籍の一因、つまり、お母さんが、子が夫の子として扱われることを避けるために出生届を提出しないという事態に陥るリスクが減ったともいえるわけです。

ちなみに、どの方法が一番ふさわしいかはケースバイケースなのですが、まずは、無戸籍で困っているお子さんやお母さんに、いろいろな解決方法があること、今回の法律の改正で、その選択肢がひとつ増えたことを、知ってもらえたら嬉しいです。

6 【重要】無戸籍でお困りの方へ・・令和6年4月1日から1年間の救済措置について

 

 

これらの法改正は、今年つまり令和6年4月1日から施行されています。
ここからが重要なのですが、本来、これらの法改正の適用を受けるのは、令和6年4月1日以降に生まれたお子さんのみです。令和6年3月31日以前に生まれたお子さんには、改正前の規定が適用されることになります。

しかし、今回、改正前の規定の中で無戸籍となってしまった方の救済を図るため、法は、令和6年3月31日以前に生まれた方についても、令和6年4月1日から1年間に限り、嫡出否認の制度を利用できることとしました。
令和6年3月31日より前に生まれた方は、現在成人となった方でも、この制度を利用できるのです。

今年の3月31日以前に生まれた方にとっては、この1年間が最初で最後のチャンスということになります。ご本人も、お母さんも、1人でも多く、この嫡出否認制度と、期間制限のことを是非知っていただきたいと思っています。

無戸籍でお困りの方は、全国の法務局、弁護士会で相談を受けていますので、相談されてください。
なお、私も、福岡県弁護士会の中で、無戸籍問題を取り扱っているワーキンググループに所属していますので、もちろん当事務所まで直接ご連絡いただいても大丈夫です。

7 おわりに

以上、今回の動画では、

<後編>
◆前編のおさらい
◆約120年ぶりの民法改正(令和6年4月1日施行)
◆法改正で、嫡出推定はどうなる?
◆嫡出否認制度とは/法改正による見直し
◆【重要】無戸籍でお困りの方へ・・令和6年4月1日から1年間の救済措置について

についてご説明しました。

そして、繰り返しになりますが、無戸籍でお困りの方へ、特に令和6年3月31日以前に生まれた方については、1年間だけのチャンスになりますので、もしこの動画をご覧になっていらっしゃいましたら、近くの法務局や弁護士会まで、ぜひ相談されてください。

今回もご覧いただきありがとうございました。

著者プロフィール

井上瑛子 弁護士
おくだ総合法律事務所
兵庫県立神戸高等学校卒
九州大学法学部卒
九州大学法科大学院修了
福岡県弁護士会所属