破産と離婚【前編】破産者が(元)配偶者に与える影響 

1 はじめに

 今回の動画では、破産と離婚というテーマで、破産者が(元)配偶者に与える影響についてご説明したいと思います。

2 問題の所在

⑴ 破産手続


 破産手続の流れの中には、破産手続と免責手続という、大きく2つの手続が組み込まれています。
 破産手続は、破産者の財産(生活に必要な一定額の財産は除く。)をお金に換えて、債権者に公平に配当する手続です。
 そして、免責手続は、法律上の支払義務を免除して、破産者の経済的な立ち直りを助ける手続です。なお、破産をすることになった事情に、浪費や詐欺行為がある場合や、破産手続の過程の中で財産隠しが判明した場合は、免責の許可が受けられないこともあります。また、免責の許可を受けた場合であっても、その後も支払義務が残る「非免責債権」(支払う責任を免れられない債権)というものもあります。

⑵ 離婚


 夫婦が離婚しようとするとき、話し合うべきことはたくさんありますが、その中でも財産的な整理が必要なテーマとして、
 ①婚姻費用又は養育費
 ②財産分与(夫婦が結婚生活中に築き上げた財産を、離婚する際に公平に分け合うこと)
 ③慰謝料(不貞、D Vなどで精神的損害を被ったとき)
などがあります。

⑶ 実は密接複雑に絡み合う破産と離婚。


 このように並べてみるとお気づきかと思いますが、離婚と破産は、この「財産」という共通項の中で、複雑に絡み合うことになります。
 つまり、離婚の際に
 ①婚姻費用又は養育費
 ②財産分与
 ③慰謝料
の各テーマの中で夫婦間で動くことになる財産は、同時に、
 破産する際に
 ・配当資源の確保
 ・他の債権者との公平性(ex.他の債権者に抜け駆けする形で財産をもらったり渡したりしていないか)
 ・免責調査(ex.財産隠しをしていないか)
 ・支払義務が免除される債権か、免除されずに残る債権(非免責債権者)か
といった観点から検討され対象ともなるわけです。
 

⑷ この動画では‥


 そこで、この動画では、<1>離婚した後に破産する場合と、<2>破産した後に離婚する場合の2パートに分けて、離婚と破産が与え合う影響についてご説明したいと思います。

⑸ ちなみに
 離婚と破産、どちらを先にすればいいの?とご質問をいただくこともありますが、先に結論を申し上げておきます。
 ケースバイケースで、どちらを選択するにしても、その方に合ったスキームをしっかり組み立てておく必要があります。
 そして、離婚と破産の両方を検討していらっしゃる方は、1度は弁護士に相談に行かれた方がよいと思います。

3 離婚後の破産

 離婚時に支払う側が破産する場合と、受け取る側が破産する場合とに分けて、それぞれ生じうる影響について検討していきましょう。

 ⑴ 支払者が破産する場合


 この場合は、支払者が負担することになる①婚姻費用②財産分与③慰謝料のそれぞれが、破産によって免責される債権か、残る債権(非免責債権)か、という点を軸に説明したいと思います。

  ① 婚姻費用・養育費 →破産後も残る

 婚姻費用・養育費は、自己破産をした場合であっても免責されません。破産法は、婚姻費用・養育費が子どもの生活を支える重要な権利義務であるという考え方に基づき、婚姻費用・養育費に関する債権者を「非免責債権」として定めています。
 したがって、婚姻費用・養育費の支払は、破産の影響を受けません。

 ただし、離婚時に、月額ではなく、将来分も含めて一括して養育費を支払うことで精算した場合は、この後ご説明する財産分与・慰謝料と同様に、その金額が不相当に過大でないかという観点からチェックが入る可能性があります。

  ② 財産分与 →未払分は原則として免責される。既払い分はケースバイケース。

 破産を申し立てた時点で未払いとなっている財産分与は、他の一般債権と同様に免責されます。
 そのため、支払者から見れば支払わなくてよくなるし、受領者から見れば請求できなくなってしまう、ということになります。

 一方、破産を申し立てた時点で既払いの場合、既に完了しているわけですから、原則として免責の対象にはなりません。
 ただし、財産分与が不相当に過大であり、財産分与を利用して不当な財産処分・財産隠匿が行われたと認められるような場合は、その過大な部分について取り消され、一度受け取っていても返還しなければならない可能性があります。破産手続の中では、他の債権者との公平性を守りつつ、配当資源を確保しなければならないからです。

  ③ 慰謝料 →未払分は原則として免責される。既払い分はケースバイケース。

 破産を申し立てた時点で未払いとなっている慰謝料も、他の一般債権や財産分与請求権と同様に免責されます。
 そのため、これも、支払者から見れば支払わなくてよくなるし、受領者から見れば請求できなくなってしまう、ということになります。
 ただし、慰謝料の内容が、
 ・破産者が積極的な害意をもって加えた不法行為による損害賠償請求権
 ・人の生命・身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権
である場合には、未払分も免責されません。

 なお、不貞行為は、基本的にこれらの不法行為に該当しないと考えられるケースが多いため、やはり免責される可能性があります。一方で、DVによって怪我を負わされた、というケースでは、「身体を害する不法行為」に該当し、未払分も免責されない可能性があります。

 破産を申し立てた時点で既払いの場合は、原則として、免責の対象にはなりませんが、財産分与と同様、不相当に過大な場合は返還しなければならない可能性があります。

 ⑵ 受領者が破産する場合


 この場合は、受領者が離婚によって受け取ることになる、①婚姻費用、②財産分与、③慰謝料、のそれぞれが、破産によって回収され、配当の対象となるかどうか、という点を軸に説明します。

① 婚姻費用・養育費

・月払いの場合
 回収・配当の対象とはならず、破産による影響を受けません。受領者が個人的に相手方に請求し、受け取ることが可能です。


・一括払いの場合
 自由財産拡張(破産者の経済的更生のために、生活に必要な財産として、配当の資源から除外すること)が認められない限り、破産管財人がこれを回収して各債権者に配当することになります。

② 財産分与

・既に受領している場合
 破産手続開始決定の時点で残っている財産については、自由財産拡張が認められない限り、破産管財人がこれを回収して各債権者に配当することになります。

・請求済み/合意済みだが、まだ受領していない場合
 破産管財人がその請求権を引き継ぎ、回収して、各債権者に配当することになります。

・離婚はしたが、財産分与については請求していない場合
 この場合の取扱いについては様々な法的議論があり、管轄裁判所や担当裁判官によって判断が異なる場合があります。

 

③ 慰謝料

・既に受領している場合
 破産手続開始決定の時点で残った財産については、自由財産拡張が認められない限り、破産管財人がこれを回収して各債権者に配当することになります。

・合意や判決などで金額が確定しているが、未だ受領していない場合
 破産管財人がその請求権を引き継ぎ、回収して、各債権者に配当することになります。

・金額が確定していない場合
 この場合の取扱いについても様々な法的議論があり、管轄裁判所や担当裁判官によって判断が異なる場合があります。

4 前編まとめ


 以上、前編の今回は、離婚後に破産する<離婚先行型>のケースで、支払う側・受け取る側、そして、①婚姻費用・養育費、②財産分与、③慰謝料、に分けて、それぞれ受けうる影響についてご説明しました。

 まとめると、

・①の婚姻費用・養育費については、受領側の生活資源という観点から、破産の影響をあまり受けない

・②財産分与③慰謝料については、これから払うのか(未払い)、既に払ったのか(既払い)という違いで取り扱いが異なってくる

ということになります。

 次回、後編の動画では、破産後に離婚する<破産先行型>のケースで生じうる影響について検討してみたいと思います。

著者プロフィール

井上瑛子 弁護士
おくだ総合法律事務所
兵庫県立神戸高等学校卒
九州大学法学部卒
九州大学法科大学院修了
福岡県弁護士会所属