調停のIT化ーWeb調停

はじめに

 今回の動画では、家事事件(離婚・相続)のWeb調停について、次のような流れでご説明したいと思います。

 ◆ 調停とは
  ・ 裁判(訴訟)とはどう違うの?
  ・ 実際にどんな風に進めるの?

 ◆ 電話会議システムと調停
  ・ もともとは遠隔地の当事者向け
  ・ 活用範囲の拡大  ・ 活用の限界

 ◆ そしてWeb会議システムの導入へ

調停とは

⑴ 裁判(訴訟)とはどう違うの?

 まず、そもそも調停とは何か、裁判(訴訟)とはどう違うのかについてお話ししたいと思います。
 調停とは、裁判のように勝ち負けを決めるのではなく、話し合いにより当事者が合意することで紛争の解決を図る手続です。
 裁判(訴訟)では、請求を認めるかどうか(当事者から見れば、自分の主張が勝つのか、負けるのか)について、その根拠となる事実を証拠によって認定しながら、裁判所が決めることになります。

 これに対し調停は、お互いの意見を出し合い、譲れる部分と譲れない部分とを整理しながら、最終的に合意できるかどうかを決めるのは当事者です。そこでは、真実がどうであるか、というよりも、双方が解決に向けて調整できるか、ということが大切なので、裁判所が証拠を見て何かを認定したり、何かを当事者に命じることもありません。
 また、裁判(訴訟)が公開の手続であるのに対し、調停は非公開の手続であることも、大きな違いです。

 このように、調停と裁判(訴訟)は、裁判所という第三者機関に入ってもらうという点では同じですが、その中で繰り広げられる話の趣旨や内容、在り方は全く異なる性質をもっています。
 そして調停は、特に家事事件ーつまり夫婦関係・親子関係・相続関係など、家族に関する問題ーの解決を図る時に有用であると考えられていて、法律上、調停を経てからでなければ訴訟を起こすことができないとされています(調停前置主義)。家庭内の紛争にあらわれる当事者の人となりや家庭の営みというものは千差万別ですから、裁判(訴訟)で法律を画一的に当てはめるよりも、まずは当事者のお話を聞きながら、柔軟な合意を目指すほうが真の解決に繋がるからです。

 ⑵ 実際にどんな風に進めるの?

裁判所のホームページから画像を引用させていただきました。
調停では、調停委員が必ず男女1名ずつ付いて、当事者の話を交互(大体20〜30分交替の印象です。)に聞き取ります。
こんな感じで、いわゆる“法廷“といった場所ではなく、テーブルでを挟んで向かい合い、お話をすることになります。
当事者に弁護士がついている場合は、本人の隣に座り、積極的に意見を述べて整理を進めたり、ご本人が伝えたいことをサポートしたりします。

調停での話し合いは、1回につき合計2時間ほど(交互に聞くので1人につき合計1時間ほど)開かれ、当事者それぞれに検討・調整の必要な事項(宿題)を示して持ち帰ってもらい、次回期日に検討結果を聞き取る、ということを何度か繰り返していきます。期日の頻度は、福岡だと大体1ヶ月〜1.5ヶ月に1回という感覚です。

このように進むうちに、合意に至った場合は調停成立となり、どうしても平行線で合意に至らなかった場合は調停不成立として終了となります。

電話会議での調停

⑴ もともとは遠隔地の当事者向け

 先ほどの写真のとおり、調停手続は、対面の方式で進行するのが本来的運用ですが、たとえば当事者同士が遠方に居住している場合などは、毎回(毎月)遠隔地まで出廷することになる当事者の負担感に配慮し、電話会議システムが導入されることがあります。
 電話会議になると、代理人弁護士がついている当事者の場合は代理人の事務所で、代理人ついていない当事者の場合は最寄りの裁判所の一室で、電話で調停委員とやりとりをするのが一般的です。

⑵ 活用範囲の拡大

 これらの電話会議システムは、多くは当事者が遠隔地にいるケースを中心に利用されてきましたが、ここ数年では、コロナ禍の“3密回避“、“非接触“といった空気の中で、その活用範囲が拡大されてきました。たとえば、同じ福岡市内の当事者でも、弁護士がついている場合は、なるべく接触のリスクを減らすため、双方電話会議でという進行も、私の感覚としては急増している状況です。

⑶ 活用の限界(電話会議のメリット・デメリット)

 電話会議のメリットとしては、以下の2点が大きいのかなと思います。
・毎回遠隔地に出向くことのコストを抑えられる
・高葛藤の関係にある相手方当事者と接触することがない(対面形式でも、裁判所内で接触することのないよう配慮されていますが、それでも「会うかもしれない」と「会うはずがない」とでは心持ちが全く違うのだと思います。)

 他方、電話会議のデメリットも大きく2点あります。
・お互いの表情や目を見て話せない
・本人確認や、本人以外の第三者が同席していないかどうかの確認に限界がある
 
 私が代理人として調停に多く関わらせていただく中で、このデメリットの1点目が、かなり大きいと感じています。
 声質だけでは、話し手の感情が読み取りづらいのです。怒っているように聞こえていたのに、後でお会いしてみると、実際は穏やかな顔で声が低いだけだった、ということもありました。
 また、こちらが話している際は、聞き手が理解しているのかを確認しながら話したいところですが、頷いているのかどうか、実は首を傾げているのか、全くわからないのです。
 当事務所では、こういったデメリットを払拭するべく、重要な局面にさしかかった時は、依頼者の方に説明して、一緒に遠隔地の裁判所に出向くという対応も行うことがあります。

 また法律でも、これらのデメリットへの配慮から、離婚や離縁がいざ成立するという場面では、電話会議の方法を利用することができません(家事事件手続法268条3項)。離婚するかどうか、離縁するかどうかは、身分関係に関わる重要な事項であり、当事者本人の意思確認を慎重に慎重に行う必要があるからです。

そしてWeb会議システムの導入へ

⑴ Web会議システムの導入

 このような電話会議システムのデメリットを補うべく、導入されることになったのがWeb会議システムです。
 裁判所と弁護士会の間では、実は結構前からWeb会議の導入、ひいては裁判手続のIT化が検討されてきたのですが、ネットを介する分、情報漏洩など別の課題が持ち上がり、なかなか導入に踏み切るに至りませんでした。
 そこを後押ししたのが、このコロナ禍です。

⑵ 試行的運用

 現在、東京・大阪・名古屋・福岡の4つの家庭裁判所にて、Web調停が試行的に運用されています。
 ただ、現時点でWeb調停を利用できるのは、当事者双方に代理人弁護士がついているケースのみです。なぜなら、調停の前提条件である、
・出席者が当事者本人であること、
・第三者が同席していないこと、
・録音や録画などが行われていないこと
について、裁判所が対面でチェックできないとなると、弁護士倫理を拠り所とするほかないからです。(簡単にいうと、社会正義の実現を使命とする弁護士が、不正行為なんて行いませんよね、という信頼を担保としているのです。)それから、IT機器や調停での操作に不慣れな当事者への配慮という趣旨もあります。

 ちなみに、当事務所にご依頼いただいている案件の中にも、裁判所から試験運用を依頼され、Web調停で進めているものがあります。実際に経験してみると、リアルタイムでその場にいる方の表情や様子が分かるので、これは本当に大きいと思います。

⑶ Web調停にまつわる法改正ー離婚成立も可能に。

 そして極めつけは、令和4年5月18日に法案が成立し、25日に公布された改正法です。今回の法改正により、対面でなければならないとされていた離婚・離縁調停の成立場面において、Web調停でも成立させることができるようになりました(改正により追加された家事事件手続法268条3項ただし書)。
 この改正法は、令和7年度までに(おそらく段階的に)施行されることになります。

 これにより、Web調停の活用範囲はより一層拡がることとなります。

おわりに

 以上、今回の動画では、調停の流れや趣旨をお伝えしながら、電話会議、Web調停といった、法律業界もIT化の流れに進んでいますよ、ということをご説明しました。
 少しでも調停の空気感やイメージをもち、より利用しやすい制度づくりへと改定されている様子が伝われば嬉しいです。
 我々弁護士も、弁護士同士で勉強会を開いたり、裁判所と協力して研修を重ね、模擬Web裁判・模擬Web調停を実施するなどして、安全かつ円滑な進行を目指して準備を進めています。

著者プロフィール

井上瑛子 弁護士
おくだ総合法律事務所
兵庫県立神戸高等学校卒
九州大学法学部卒
九州大学法科大学院修了
福岡県弁護士会所属