最新判例解説 子の監護に関する審判、父母以外は申し立て不可ー最高裁で初判断(令和3年3月29日)

最新判例解説
子の監護に関する審判、父母以外は申し立て不可ー最高裁で初判断(令和3年3月29日)

1 はじめに

 

今回は、今年2021年3月29日に出された、2件の最高裁判例について解説したいと思います。
この最新判例は、2件とも、「子の監護に関する処分」の審判の申立てを、子の父母以外の第三者が行うことはできるのか、というところに論点があり、最高裁は2件ともに”第三者による申立ては不可”という結論を出しました。

これから、まず、そもそも「子の監護に関する処分」とは何か、ということと、今回の最高裁判例における問題の所在(論点)について説明したうえで、2件の事案の概要と第2審の判断内容ついてご紹介し、最後に最高裁の判断内容と考え方について解説したいと思います。

2 「子の監護に関する処分」って?

⑴ 「子の監護」とは

法律でいうところの「子の監護」とは、子どもを現実に引き取って世話をし、保護、監督、教育にあたることをいいます。
子の監護を担う「監護者」は、多くの場合親権者と一致しますが、たとえば離婚した夫婦の中で、親権者は父としつつも、監護者は母とし、実際に母と子の生活をスタートさせるケースもあります。(この場合、父は、親権のうち「財産管理権」を司ることになります。)

⑵ 「子の監護に関する処分」とは

 

子の監護について、民法には以下の規定があります。

第766条【離婚後の子の監護に関する事項の定め等】

1項  父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。

2項 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、同項の事項を定める。

3項 家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前2項の規定による定めを変更し、その他子の監護について相当な処分を命ずることができる。

4項 前3項の規定によっては、監護の範囲外では、父母の権利義務に変更を生じない。

少し分かりにくいのですが、下線を引いている箇所が「子の監護に関する処分」の具体的事項です。

これらをもう少し分かりやすく整理すると、以下の類型があります。

■子の監護者の指定、子の監護者の変更
・・・離婚した夫婦の中で、子どもの親権者と監護者を分けたい場合

■子の引渡し又は子の引取り
・・・引渡し:親権者や監護者が、事実上子どもを引き取って監護している親に対し、子どもを引き渡してもらいたい場合
引取り:事実上子を監護している親が、親権者や監護者に子どもを引き取ってほしい場合

■面会交流
・・・親権又は監護権を有していない親が、子どもと定期的・継続的に会い、交流したい場合

■養育費請求
・・・離婚後、現実に子どもを監護する一方の親が、他方の親に対し、子の監護に必要な費用の分担を求める場合

⑶ 「子の監護」に関する事項の決め方

先ほどの条文のとおり、⑵で述べた各事項については、まずは当事者が協議で定めることになっていて(1項)、協議が調わないときやそもそも協議できないときは、当事者から家庭裁判所に”決めてほしい”と申立てをすることになります(2項)。つまり、子の監護に関する事項は、最終的には家庭裁判所が、「子の監護に関する相当な処分」を決め、命ずることになります。
これが、「子の監護に関する処分」の審判です。

3 今回の最高裁判例における問題の所在(論点)

今しがた、子の監護に関する処分は、「当事者」が家庭裁判所に申し立てる、と申し上げました。条文上は「父母」とありますが、父母のみに限られるのか、それよりも広く捉えるのか、これまで議論がなされていたところでした。
今回の最高裁判例はいずれも、この「当事者」の範囲、つまり「家庭裁判所に審判を申し立てられるのは誰か?」ということが論点となり、そこに最高裁として初めて判断をしたことになります。

4 2件の事案の概要と原審(第2審)の判断内容ついて

(以下、登場人物は全て「子」目線で記載します。)

⑴ 1件目ー面会交流

ア 事案の概要

1件目の事案は、祖父母が、子を監護している父親に対し、定期的に子と会わせてほしいと、面会交流を申し立てた事案です。

イ 原審(第2審)の判断

最高裁判断の1つ手前である第2審の大阪高裁は、結論から述べると、“祖父母による面会交流の申立てを認める余地がある”としました。
詳しく述べると、大阪高裁は、父母以外の第三者であっても、子との間に父母と同等の親密な関係を持っていて、面会交流を認めることが子どもの利益にかなう場合は、「民法766条1項及び2項の類推適用」により、子の監護に関する処分として、第三者の申し立てによる面会交流を認める余地がある、と示しました。

⑵ 2件目ー監護者指定

ア 事案の概要

2件目の事案は、祖母が、子を監護している母親(祖母から見ると実の娘)に対し、子は自分が監護すべきだとして、監護者指定を申し立てた事案です。母は再婚相手とともに子の養育を望んだのですが、祖母が反対し、子も祖母との生活を続けたいと希望しました。

イ 原審(第2審)の判断

第2審の大阪高裁は、結論から述べると、“事実上の監護者である祖父母等も、子の監護者指定の審判を申し立てることができる”とし、祖母を子の監護者と指定しました。
詳しく述べると、大阪高裁は、子の福祉をまっとうするためには、民法766条1項の法意に照らし、事実上の監護者である祖父母等も、家庭裁判所に対し、子の監護に関する処分として、子の監護をすべき者を定める審判を申し立てることができる、としました。

5 最高裁の判断内容と考え方

 

⑴ 2件の原審のおさらい

立ち返りますが、これらの2件は、いずれも「家庭裁判所に審判を申し立てられるのは誰か?」ということが論点の1つとなったケースです。
そして、原審高裁は、一定の条件はありながらも、民法766条1項・2項を類推適用したり、その法意を解釈したりして、祖父母による審判の申立てを認めたわけです。

⑵ 最高裁の結論

そして今回、最高裁は、以上の2件それぞれについて、同じ理由で、
“父母以外の第三者は、家庭裁判所に対し、子の監護に関する処分について、審判を申し立てることはできない”
という結論を出し、それぞれの申立てを却下しました。

⑶ 最高裁決定の理由

最高裁決定の理由は、大きく分けて、以下の2点です。
①民法766条は、父母による申立てを予定している。
②民法その他の法令において、父母以外の第三者による申立てを認める規定がない。
また、たとえ第三者が子を監護していたからといって、その第三者を父母と同視することはできない。たしかに、子の監護に関する事項を定めるにあたって、子の利益は最も優先して考慮しなければならないものであるが、だからといって第三者による申立てを許容する根拠にはならない。

⑷ 原審の考え方と、最高裁の考え方の違い

ここで、改めて条文を見てみましょう。

第766条【離婚後の子の監護に関する事項の定め等】

1項  父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。

2項 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、同項の事項を定める。

3項 家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前2項の規定による定めを変更し、その他子の監護について相当な処分を命ずることができる。

4項 前3項の規定によっては、監護の範囲外では、父母の権利義務に変更を生じない。

民法は、子の監護に関する事項についての協議・決定について、「父母」が主体となると規定しています。
原審は、「子の利益」を重視するのであれば、父母だけでなく、子と親密な第三者も主体として含まれるべきであるとして、「父母」という文言に解釈を加えたわけです。
これに対し、最高裁は、「父母」という民法の規定を厳格に判断した、ということになります。

ここからはあくまで私の推測ですが、このような最高裁決定の背景には、第三者に申立てを認めることは、“法の解釈を超える”ものであるというブレーキがかかったのではないかと思われます。裁判所は、法を解釈し、使うことはできますが、法を作ることはできません。ここから先は、裁判所が立ち入るのではなく、立法に委ねるべきものと捉えたのではないかと思います。

6 おわりに

以上、子どもの監護に関する最新の最高裁判例について、ご紹介しました。

こうして、現行法のもとでは厳格な解釈がなされた形ですが、実際問題、養育能力に懸念のある父又は母のもとでは 子どもが不安定な環境に置かれかねないというときに、祖父母のような第三者による監護の申立てを認めるべきケースも大いにあり得ます。本件も、まさにそういう悩ましいケースだったのではないかと思います。

こういった場合の第三者による申立ての是非については、裁判官や大学教授ら専門家でつくる研究会が、令和3年2月の報告書の中で、「第三者に対しても調停・審判の申立権を与える…(中略)…旨の規律を設けることとしてはどうか。」と、提言がなされています。

また、立法サイドである法制審議会も、離婚後の子どもの養育をめぐり、制度の見直しに着手し初めているところです。

法改正や制度策定はまだ先の話と思いますが、今後も関心を向けたい大切なテーマです。

著者プロフィール

井上瑛子 弁護士
おくだ総合法律事務所
兵庫県立神戸高等学校卒
九州大学法学部卒
九州大学法科大学院修了
福岡県弁護士会所属