離婚等の家事調停における本人と弁護士の役割

1 調停が行われる場所・日時

▶家庭裁判所
▶平日/午前・午後

2 ご本人の出席

▶原則:出席
∵① 身分関係に関する意思決定
② 経緯事情の説明
▶例外
▶原則に戻って:離婚成立時は必ず出席

今日は家事調停における本人と代理人の関わり方についてお話をしたいと思います。

まず家事調停が具体的にいつ・どこで行われているかと言いますと、場所としては家庭裁判所にある調停室で行われます。
それから日時に関しては、必ず平日で、午前か午後のどちらかの時間枠が設定されて行われることになっています。

ここで、相談を受けた時によく誤解があるなと思うことが多いのですが、もし代理人・弁護士に依頼するとなった場合、ご本人は行かなくてよいのかというと、そうではありません。
原則として、家庭裁判所にはご本人にも一緒に同席していただく必要があるのです。

なぜかというと、第1に、こういった「家事調停」という手続が、身分関係に関する意思決定を重視しているからです。代理人が意向を聴いたうえでご本人に代わってお話をするということはできるんですけれども、最終的にはご本人がどう考えるかということを、裁判所も、出席する代理人弁護士も非常に重視しているわけです。

第2に、調停では、様々な事情を伺いながら話を進めていくことになります。

普通の民事裁判と違って、1回の期日の時間も長く、例えば2~3時間かけて、こちらと相手方と交互にお話をしながら進めていくことになります。ですので、事情を説明する・しなければならない機会がたくさんあるわけです。そうすると、代理人の方でご本人の事情を伺って一つ一つ裁判所に対して説明することももちろんできるんですけれども、本人の言葉でお話をしていただいた方が、裁判所として、詳しい経緯を把握できるということもあります。また、調停の席上で出された相手方の話に対しても具体的に話すことができるわけです。

以上の次第で、裁判所の運用としては、家事調停は原則として本人が出席する必要があります。
もちろん、お仕事を休まないといけない、あるいは、ご自身が病気だったり、誰かの介護もしくは養育だったり等で、出席がどうしても難しいという場合もあるかと思います。その時は、ご相談次第で例外的に(かなり例外的な対応ではあるのですが)、代理人だけで行くという場合もないではありません。

なお、いよいよ離婚が成立する、という日には、必ずご本人が一緒に行かなければなりません。

そういった意味で、相談の時に弁護士に頼めばもう自分は行かなくていいんじゃないのという場面で、皆さんにこの説明をすると結構ビックリされる方も多いので、この機会にちょっと覚えておいてください。

そうすると今度は、「じゃあ家事調停って、そもそも当事者だけ行けば良くて、もう代理人とか弁護士とかはいらないんじゃないの?」という考えに至るのではないかなと思います。

実際、申立ての費用だけだったらそんなに高くもないので、自分で行きます、という方もいらっしゃるのではないかと思います。

そこで、これから、弁護士がついた場合にどういったメリットがあるかということについてご紹介をしたいと思います

3 弁護士の意味?

何を申し立て、あるいは何を申し立てられるかにもよりますが、調停で検討する事項は多岐にわたります。

当事者だけでは、双方がその事項1つ1つをとって自分の主張を譲れず、全面対立するなど、調停が紛糾しがちです。

こうなると、感情的なぶつかり合いの場となってしまい、どちらも一歩も引けない状況となってしまうわけです。

一般的に、検討するべき事項が多ければ多いほど、冷静な整理が必要となります。相手に何を譲ってほしいのか、だけでなく、その代わりに自分は何を譲ってよいのか、整理しなければなりません。

ここで、弁護士がついていれば、審判や裁判になった場合の見通しをふまえて、これらのことを整理できるのです。

どういうことかというと、調停はあくまで当事者間の合意を目指すものであるのに対し、審判や裁判になった場合は、裁判所が、これまで積み重ねられた先例(裁判例・審判例等)を基準にして、判断を出すことになります。

弁護士は、その先例をたくさん研究しているので、依頼を受けたケースのそれぞれが、さらにはそこで主張される争点それぞれが、最終的にどのような結果になるか、解決の目安を持っているのです。それから、裁判所にどのような事情を説明し、そのためにはそのような資料を提出すれば、一般的に効果的かを知っています。

そういうわけで、家事調停に弁護士がついていれば、審判や裁判にあがったときに明らかに認められないであろう主張を調停の段階からそぎ落とし、争点を絞ることができます。

そして、そういう思考回路を、事前に依頼者と共有し、検討事項を整理することができます。依頼者の意向を聞きながら、主張すべき事・主張してよい事・主張できないけれども交渉には使える事・全く主張できない無理筋な事などを振り分け、共有できるわけです。

そうすると、いざ調停に臨んだときに、感情的な争いを緩和し得るほか、ここは譲る代わりに、ここは譲ってほしいという交渉を相手に持ちかけることができます。

4 おわりに

以上ご説明したとおり、家事調停は本人に出席いただくことが原則ではありますが、弁護士に依頼し、同席してもらうことにも大きな意義があるかと 思います。

また、もう1つメリットがあるとすれば、遠慮なく気持ちを零すことができる点かと思います。親しい人にははばかられても、他人なら話をしやすい、ということもあるのではないでしょうか。弁護士には守秘義務がありますし、ある意味全くの他人です。

一生に1度あるかどうかという調停や裁判をかかえることは、申し立てられた方はもちろん、実は申し立てた方も、精神的な負担が大きいものと考えています。

個人的な信条ではありますが、依頼者さんが愚痴や泣き言を零されたときは、それも丸ごと受け止めながら、二人三脚で調停を進めていけたらいいなと常々考えています。

著者プロフィール

井上瑛子 弁護士
おくだ総合法律事務所
兵庫県立神戸高等学校卒
九州大学法学部卒
九州大学法科大学院修了
福岡県弁護士会所属