養育費が未払い…相手の勤務先や転職先は分かる? “財産開示手続”と“第三者からの情報取得手続”

【親族】養育費が未払い…相手の勤務先や転職先は分かる?― “財産開示手続”と“第三者からの情報取得手続”を解説 ―

1 はじめに

今回は、「養育費が未払い…義務者の勤務先や転職先は分かるのか?」というテーマでお話ししたいと思います。
養育費に関する法律相談で、本当に多いのが、
・以前は払ってくれていたのに、突然止まった
・連絡も取れない
・強制執行で給与を差押えできればと思うが、転職したみたいで、どこで働いているか分からない
こういったケースです。
「相手の勤務先が分からないと、もう何もできないんでしょうか?」と聞かれることも多いのですが、実は、裁判所の手続を使えば“調べられる場合”があります。
今日は、裁判所の手続として用意されている、
①財産開示手続
②第三者からの情報取得手続
について、できるだけ分かりやすくお話しします。

2 大前提:弁護士でも勝手に勤務先を調べることはできない

まず大前提として、弁護士であっても、自由に相手の勤務先や口座を調査できるわけではありません。
また、ご相談者の中には、SNS・噂をもとにご自身で調査したり、探偵を利用したりすることを検討する方もいらっしゃいますが、いずれにしても限界があり、確実性や法的リスクの問題もあります。
そこで用いられるのが、
裁判所を通じた正式な調査手続です。

3 財産開示手続

⑴ 財産開示手続の概要

財産開示手続とは、義務者本人を裁判所に呼び出し、財産状況を申告させる制度です。
開示対象となる財産には、例えば次のようなものがあります。

・勤務先・収入の有無
・預貯金
・不動産
・その他の財産

養育費の場合、調停調書・審判・判決など、債務名義があることが利用の前提となります。

なお、この手続において、相手方が、虚偽の申告をしたり、正当な理由なく出頭しなかったりした場合には、「6か月以下の懲役または50万円以上の罰金」といった刑事罰の対象となる可能性があります。

⑵ 財産開示手続の実情

財産開示手続は、必ずしも全てが明らかになる「万能な手続」ではありません。
先ほど、虚偽申告などの対応をした相手方にはペナルティが用意されているとお話ししましたが、それでも、
・そもそも出頭しない
・出頭しても「財産はない」と述べる
・転職先を明確にしない
といったケースは少なくありません。
ただし、近年実務では、ペナルティの適用については年々強化されている印象があり、
「どうせ出なくても大丈夫」「適当に答えておけばよい」
という対応が許されにくくなっています。
また、財産開示手続は、次に説明する「第三者からの情報取得手続」につながる重要なステップになることがあります。

4 第三者からの情報取得手続

⑴ 第三者からの情報取得手続の概要

第三者からの情報取得手続とは、 義務者本人ではなく、第三者に対して情報提供を求める制度です。
主な照会先としては、次のような機関があります。
年金事務所
市区町村
金融機関
勤務先(給与支払者)
これにより、義務者の就労状況や収入の手がかりが得られる可能性があります。

⑵ この手続で、勤務先は本当に分かるの?

結論から言えば、勤務先が判明する場合はありますが、100%分かるわけではありません。
① 正社員・長期雇用の場合(判明しやすい)
判明しやすいのは、正社員や、一定期間以上継続して雇用されている方です。
こういった方は、
・厚生年金・健康保険に加入している
・給与が事業所から継続的に支払われている
・住民税が「特別徴収(給与天引き)」されている
といった形で、年金事務所や市区町村に情報が蓄積されている可能性があるからです。
そのような中で、
年金事務所への照会
→ 厚生年金に加入している事業所が分かる

市区町村への照会
→ 特別徴収(給与天引き)の情報が得られることがある

という形で、どの事業所で働いているか、または、少なくとも雇用されている事実が判明する可能性が高くなります。

② 転職して一定期間が経過している場合(タイミング次第)
なお、転職している場合でも、転職直後は情報が反映されていないこともありますが、
・社会保険に加入した
・初回の給与支払いが行われた
・住民税の徴収方法が切り替わった
といった経過を経ると、後から勤務先が判明するケースもあります。
そのため、タイミングを見計らい、時期をずらす等して手続を進めてみると、情報として得られる可能性があります。

③ 判明しにくいケース
一方で、次のような働き方の場合は、勤務先の特定が難しくなる印象です。
・日雇い・短期アルバイト
・現金手渡しの給与
・個人事業主・フリーランス
・家族経営の事業に形式的に関与しているだけの場合
これらは、
・社会保険に加入していない
・住民税が普通徴収
・公的機関に雇用情報が残りにくい
という性質があり、そのため、情報としてヒットしないことがあります。

5 勤務先が分かった後にできること

勤務先が判明した場合、給与差押えを行うことが可能になります。
養育費は、一般の債権よりも手厚く保護されており、一定の範囲まで給与を差し押さえることができます。
詳しくは、弊所にて別途、給与差押えについて解説した動画・記事がありますので、そちらをご参照ください。

6 時効に注意

ただし、養育費の未払いについては、いつまでも請求できるわけではないという点に注意が必要です。
養育費は、以下のとおり5年または10年の時効にかかります。
・原則5年:各支払期限ごとに、5年で時効にかかります。
・10年:調停・審判・判決などにより、既に支払期限が到来していた未払分(過去分)が金額を特定して認定された場合、その部分に限っては時効期間は10年となります。
したがって、調停調書をお持ちの方も、将来分まで一律に10年になるわけではないので、ご注意ください。
未払いが続くと、古い月の分から順に時効消滅のリスクが生じることになります。
もっとも、今回ご紹介した裁判上の手続を利用すれば、時効の完成を防げる場合があります。
そのため、勤務先を調べるための手続を進めながら、同時に時効対策を行うことができる点も、これらの制度の重要なメリットといえるでしょう。

7 支払義務者の方へ

また逆に、このような手続が取られているということで、相談にこられる支払側の方もいらっしゃいます。
「ここまで追いかけられなきゃいけないのか」と仰る方もいらっしゃるのですが、それだけ、養育費というものが法律上非常に大切なものと位置付けられていることをご理解の上、引き続きお支払いにご協力いただけたらなと思っています。
なお、中には「病気で休職・退職せざるを得なかった」「勤務先が倒産した」とかで、減給や無給に至ってしまったという、やむを得ないご事情をお持ちの方も確かにいらっしゃいます。その場合は、受取側の方に、養育費の減額を検討してもらいたいと交渉したり、場合によっては養育費減額調停を申し立てるという選択肢もあり得ますので、その場合も法律っそ相談にお越しいただけたらと思います。

8 おわりに

以上、養育費が未払いになった場合にとり得る、
財産開示手続 と 第三者からの情報取得手続
についてご説明しました。

これらの制度を活用することで、状況が動く可能性があります。

個別事情によって最適な対応は異なりますので、
急に養育費が止まってしまったり、相手の状況が分からずにお困りの方は、1人で抱えず、早めに専門家へ相談することをおすすめします。

 

著者プロフィール

井上瑛子 弁護士
おくだ総合法律事務所
兵庫県立神戸高等学校卒
九州大学法学部卒
九州大学法科大学院修了
福岡県弁護士会所属